
WebサイトやデジタルプロダクトのCX(顧客体験)を向上させるには、単なる数値データだけでなく、実際のユーザー行動を深く理解することが欠かせません。その鍵となるのが「セッションリプレイ」です。セッションリプレイは、数値では見えにくいリアルな動きを可視化し、UX/UIの改善やコンバージョン率の向上に貢献します。
本記事では、ユーザー行動を把握したいプロダクトマネージャー(PdM)、マーケター、データアナリスト、カスタマーサクセスに向けて、セッションリプレイの仕組みやヒートマップとの違い、具体的な活用方法を解説します。
1. セッションリプレイとは?
セッションリプレイの概要
セッションリプレイとは、Webサイトやデジタルプロダクト(SaaS、サブスクリプション、EC、アプリなど)上でのクリック、スクロール、マウスの動き、フォーム入力などのリアルな操作を動画形式で再現します。ユーザーがどのページで迷い、どこで離脱しているのか、どのような操作の流れをたどっているのかを動画で再現し把握できるのが最大の特長です。
特に、ページ遷移の流れやユーザーのつまずき、操作ミスの有無を詳細に分析するのに役立ちます。

セッションリプレイの仕組み
セッションリプレイは、ユーザーの行動データをキャプチャし、専用のダッシュボードや分析ツールで再生できるようにします。この技術は、ブラウザのイベントトラッキングやサーバーログを活用し、実際のページレンダリングを再現することで、ユーザーの操作を忠実に再現します。
企業がセッションリプレイツールを導入する際は、データの取得方法やプライバシー管理の観点が重要です。適切な設定を行うことで、ユーザーのプライバシーを保護しながら有用なデータを取得できます。
ヒートマップとの違い
セッションリプレイとよく比較されるのがヒートマップです。ヒートマップはページ内のクリックやスクロールの分布を可視化し、どのエリアがよく見られているかを分析できます。一方、セッションリプレイは一人ひとりのユーザー行動を詳細に確認できるため、定性的な分析に適しています。
たとえば、ヒートマップでは「多くのユーザーが特定のボタンをクリックしている」ことは分かりますが、「なぜそのボタンをクリックするまでに迷ったのか」「クリック後に離脱したのか」といった背景までは把握できません。セッションリプレイを活用することで、こうしたユーザー心理や課題をより深く理解できます。
項目 | セッションリプレイ | ヒートマップ |
概要 | 実際のユーザー操作を動画形式で再現できる機能 | ページ内のユーザーの操作傾向(クリック・スクロール等)を集計・視覚化 |
主な用途 | 定性的な分析(ユーザー行動の流れやつまずきの把握) | 定量的な分析(よく見られるエリアやクリック箇所の傾向把握) |
分析対象 | 個々のユーザー単位の行動 | ユーザー全体の操作傾向 |
得られる情報 | なぜその行動をしたのか、どこで迷ったかなどの背景 | どこが注目されているか、クリック率の高い箇所などの傾向 |
再現性 | ページの表示やマウス操作などを動画で再現 | 静的な視覚データ(ヒートマップ画像)として表示 |
代表的な活用シーン | ユーザーの離脱原因分析、UI改善、カスタマーサポート | CTAの効果検証、ページレイアウト改善 |
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2. セッションリプレイツールの主なユースケース
ユーザーインタビューの補完として行動データを活用
ユーザーインタビューを実施する際にセッションリプレイを活用することで、定量データでは見えなかった細かな行動や心理を補完的に把握できます。
アンケートでは「使いやすい」と回答していたユーザーが、実際には同じ操作を何度も繰り返しているケースもあります。セッションリプレイを通じて実際の行動を可視化することで、インタビューだけでは得られない新たな気づきにつながります。
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つまずきポイントの特定
ユーザーが意図せず離脱したり、特定の操作で迷っている箇所を特定できます。
たとえば、フォーム送信時にエラーが発生しているのに、エラーメッセージが目立たず、ユーザーが何度も入力を繰り返しているケースを発見できます。こうしたボトルネックを特定することで、CXの改善につなげられます。
コンバージョン率向上のための分析
購入やお問い合わせなど、コンバージョンに至るまでの行動を分析し、どこで離脱しているのかを特定できます。
たとえば、「カートに追加」したユーザーが購入に進まず離脱している場合、その直前の操作を確認することで改善施策を検討できます。
機能の利用状況と定着度の分析
新機能がユーザーに意図通りに使われているかどうかを確認できます。
リリース後、ユーザーがどのように機能を操作しているかを再生し、期待した動作がされているか、操作が定着しにくい箇所はどこかを把握できます。
エラーやバグの再現
ユーザーから「動作しない」という報告を受けても、詳細な情報がないと再現が難しいケースがあります。セッションリプレイを活用すれば、問題が発生した具体的な状況を視覚的に把握でき、スムーズなバグ修正につなげられます。
カスタマーサポートの効率化
カスタマーサポートの対応時に、ユーザーの操作履歴を事前に確認することで、適切かつ迅速な対応が可能になります。
たとえば、「〇〇の設定ができない」といった問い合わせがあった際に、実際の操作手順を確認することで、的確なサポートを提供できます。
ユーザージャーニーの可視化
特定のユーザーが、プロダクト内をどのように移動し、最終的にどのページで目的を達成したのかを視覚的に把握できます。
これにより、理想的なユーザーフローを設計し、ナビゲーション構造や導線の改善に活かせます。
休眠ユーザーの行動分析
休眠前のユーザー行動を分析することで、どのタイミングで関心を失ったのかを特定できます。
たとえば、「特定のページを最後に訪れて以降、利用しなくなった」といったパターンを検出し、適切なリテンション施策につなげられます。
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3. セッションリプレイツールの導入時に考慮すべきポイント
データのプライバシーとセキュリティ対策
セッションリプレイではユーザーの行動を詳細に記録するため、個人情報や機密データの取り扱いに細心の注意が必要です。特にフォーム入力や決済情報などが対象となる場合は、以下のような対策が求められます。
匿名化・マスキング機能の活用
フォーム入力データやユーザーIDなどの個人情報を自動でマスキングできるツールを選定することで、情報漏えいのリスクを低減できます。データの保存ポリシーの明確化
ユーザーの行動データをどの程度の期間保持するかを事前に定義し、削除タイミングや運用ルールも含めた明確なデータポリシーを策定する必要があります。
セッションの定義と切替条件
セッションリプレイでは、ユーザーの訪問開始から離脱までの一連の行動を記録しますが、セッションがどのように定義され、どのタイミングで切り替わるのかを理解する必要があります。
セッションの切替例
30分以上ユーザーの操作がない場合(タイムアウト)
ユーザーがブラウザを閉じた場合
新しいタブでWebサイトを開いた場合(設定による)
IPアドレスやデバイスの変更が発生した場合
4. まとめ
セッションリプレイは、数値データでは捉えにくいユーザーのリアルな行動を可視化し、プロダクトの改善に活かせる強力なツールです。UX/UIの課題発見、コンバージョン率の向上、バグの再現、カスタマーサポートの効率化など、さまざまな活用が可能です。
導入にあたっては、プライバシー管理やデータの保存ポリシーを適切に設定し、安全に運用することが重要です。セッションリプレイを活用することで、CXの向上につなげ、より直感的で使いやすいプロダクトを実現しましょう。
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