プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)とは? データを可視化し、継続的にプロダクトを改善する方法

目次
デジタルプロダクトの成功には、ユーザー行動の深層理解と継続的な改善が欠かせません。従来のWebサイト解析ツールでは把握しきれない、プロダクト内での具体的なユーザーアクションやエンゲージメントを可視化する手法が、「プロダクトアナリティクス」です。
本記事では、プロダクトアナリティクスツールの概要から、従来のWebサイト解析ツールとの違い、主要指標、実践的な活用方法までを体系的に解説します。プロダクトマネージャー(PdM)、マーケター、データアナリスト、カスタマーサクセスに向けて、データを戦略的に活用し、CX(顧客体験)を向上させるための視点をご紹介します。
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)ツールとは?
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)ツールの概要
プロダクトアナリティクスツールは、SaaS、サブスクリプション、EC、アプリなどのデジタルプロダクトにおけるユーザー行動を可視化・分析し、プロダクトの成長を加速させるためのツールです。ユーザーの実際の行動パターンを正確に把握し、客観的データに基づいた継続的なプロダクト改善を可能にします。
Webサイト解析ツールとの比較
Googleアナリティクス4(GA4)などのWebサイト解析ツールは、Webサイトやアプリの訪問者の流入経路や全体的な行動傾向を把握することに優れています。
そのため、アクティブユーザー数、セッション数、エンゲージメント時間など、主にWebサイト上の行動を測定対象としています。
一方、プロダクトアナリティクスツールは、プロダクト内におけるユーザーの操作を詳細に把握し、エンゲージメントや継続利用の向上に向けた分析に優れています。
「どの操作が行われたか」「どの機能がどの程度使われているか」「どのボタンがクリックされたか」など、具体的なアクションのトラッキングが可能です。
たとえば、Googleアナリティクス4で「想定していないページで滞在時間が長くなっている」という課題を発見した場合、プロダクトアナリティクスツールを用いることで「そのページ内でユーザーが実際にどの機能を使ったか」「どの操作が障害になっているか」まで深掘りできます。トラフィックにとどまらない行動インサイトに基づき、具体的な改善施策を導き出すことが可能です。
Googleアナリティクス4とプロダクトアナリティクスの比較
項目 | Googleアナリティクス4 | プロダクトアナリティクス |
特徴 | 流入経路や全体的な行動傾向を把握 | エンゲージメントや継続利用の向上に向けた分析 |
分析対象 | Webサイトのトラフィック中心 | プロダクト内のユーザー行動 |
測定指標の例 | セッション数、アクティブユーザー数、ページビュー、エンゲージメント時間など | 機能利用頻度、ボタンクリック、コンバージョンに至る具体的なアクション |
可視化できる情報 | ページ単位の訪問者行動、流入元、滞在時間など大枠の傾向 | 特定機能の使用状況や具体的操作 |
活用例 | 「特定ページの離脱率が高い」という課題の特定 | 「離脱の原因となった具体的な操作」を特定 |
なぜプロダクトアナリティクス(プロダクト分析)が必要なのか?
ユーザーの根本的な困りごとを理解する
持続的な成長の鍵は、ユーザーの本当の課題を理解し、解決することにあります。
プロダクトアナリティクスツールだけでこれを達成できるでしょうか? 答えはNoです。
根本的な困りごとを理解するには、以下の2つの視点が不可欠です。
定性データ:インタビューやNPS®︎(注)調査による感想や意見
→「なぜ」という背景や感情を把握できる
定量データ:クリック、操作順序、使用頻度などの客観的な行動
→ユーザー自身も気づいていない行動パターンを発見できる
注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
デジタルサービスの普及により、「ユーザーの言葉」と「実際の行動データ」の両方から分析できるようになりました。定性・定量の両面からアプローチすることで、「言葉にされていないが実際にはこう使っている」といったリアルなユーザー像を描き出せます。
ユーザー体験がSaaSビジネスの成長に直結する
SaaSビジネスでは、顧客生涯価値(LTV)とリテンション率が成長の鍵を握ります。サブスクリプション型の特性上、顧客が継続利用すればするほど売上が積み上がります。
プロダクトアナリティクスツールを活用することで、ユーザーが初回ログインからロイヤルカスタマー化するまでの道のりをデータで可視化できます。
可視化できるユーザー行動の例
初回ログイン後の主要アクション
機能別の利用パターン
継続利用につながる継続率と関係の深い利用体験
頻繁に使われている機能
離脱を引き起こす要因とそのタイミング
これらを分析し導線を最適化することで、ユーザー体験が向上し、リテンション率およびLTVの自然な向上につながります。
プロダクト主導型成長(PLG)の実現
プロダクト主導型成長(PLG:Product-Led Growth)の本質は、プロダクト自体が「最高の営業担当者」として機能することにあります。ユーザーがプロダクト体験から価値を直感的に感じることで、「これは使える」と納得し、自然と継続利用へとつながります。
このアプローチでは、広告や営業活動への依存が軽減され、顧客獲得にかかるコストを抑制できます。
プロダクトアナリティクスツールにより明らかになった行動パターンをもとに、価値を最大限に感じてもらえる体験を設計することで、継続率やクロスセルの向上、営業活動の効率化など持続的な成長を支援できます。
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)市場の動向
プロダクトアナリティクス市場は海外を中心に成長を続けていますが、日本国内ではまだ十分に普及しているとは言えません。近年になって、国内でもエンタープライズ企業を中心に導入が進みつつあります。
AllieAllied Market Researchの調査(※1)によると、プロダクトアナリティクス市場は2021年に102億米ドルと評価され、2022年から2031年にかけて、年平均成長率(CAGR)22.7%で推移し、最終的には767億米ドル規模に達すると見込まれています。また、現時点で北米が最大のシェアを占めていますが、今後はAPAC地域(アジア太平洋地域)が最も高い成長率を示すとされています。
※1:出典 https://www.alliedmarketresearch.com/product-analytics-market-A07474
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)は誰が行うのか?
かつてはプロダクトアナリティクスは一部の専門職に限られた領域でしたが、現在では多様な職種の人々が関与するようになっています。
プロダクトマネージャー(PdM):機能の優先順位付けと改善の判断
カスタマーサクセス:CXの最適化と定着支援
マーケター:効果的なアプローチやキャンペーンの設計
データアナリスト:より深いインサイトの抽出・可視化
さらに、ノーコードツールの進化により、エンジニアでなくても誰もが分析に参加しやすくなりました。ただし、真の変革には、組織全体のデータリテラシーの向上が不可欠です。各部門が連携し、共通のKPIやユーザー理解に基づいて意思決定できる体制を整えることが、継続的なプロダクト改善の鍵となります。
よくあるプロダクト改善の課題
直感や一部の声に頼った意思決定
「この機能リリースは成功した!」と結論づける前に、その判断はどこまで検証されていますか?
多くの企業では、売上やアクセス数といった表面的な数値や、一部の熱心な顧客の声のみに依存して意思決定してしまうことがあります。
それだけではユーザーの根本的な困りごとを見落とすリスクがあります。
たとえば、ある機能の利用率が高かったとしても、行動データを確認すると「本来4クリックで完了する操作が、実際には15クリック必要だった」など、ユーザビリティの課題が浮かび上がるケースもあります。
定性的な意見と定量的な行動データの両方を組み合わせることで、より正確な意思決定が可能になります。

分析環境のセットアップと保守の負担
プロダクトアナリティクスを始める際の大きな壁のひとつが、分析基盤の構築と保守運用です。
どのデータを収集すべきか
どの指標を重視するか
どのように可視化するか
どうやってデータを一元管理するか
こうした設計と運用には専門知識と人的リソースが求められ、日々の保守作業も軽視できません。その結果、分析環境の整備が後回しになってしまうこともあります。
プロダクトアナリティクスツールを活用することで、こうした負担を軽減し、日常的なデータ活用を容易にできます。
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)ツールの活用事例
活用事例 ①:新機能リリース後の効果測定と課題の特定
新機能をリリースした後、その利用率や課題を可視化し、改善施策につなげることが重要です。ユーザーの操作履歴や行動タイムラインを動画やセッションデータとして確認することで、実際の利用状況を把握できます。
さらに、利用しているユーザーと利用していないユーザーを比較することで、未利用の要因を特定できます。データに基づく仮説検証サイクルを高速で回すことで、機能の定着率を高めることが可能になります。
活用事例 ②:解約リスクの高い顧客の事前察知
利用状況の定量的可視化により、解約リスクの兆候を早期に察知できます。
カスタマーサクセスはこのデータを活用して、介入の優先順位を明確にし、リスク顧客へのプロアクティブな対応を行えます。問題が深刻化する前に適切な支援を提供することで、顧客満足度と継続率の向上を実現できます。
活用事例 ③:ユーザーインタビューの精度向上
インタビュー前にユーザーの行動データを事前に分析することで、質問の精度とインタビューの価値が飛躍的に高まります。
ユーザーの発言だけでなく、実際の操作履歴をもとに会話を構成することで、表層的な感想ではなく、真のニーズや行動背景に迫ることが可能になります。
活用事例 ④:ユーザー体験のつまずきを解消し満足度を高める
ユーザーが離脱するポイントや操作につまずく箇所を分析し、スムーズな体験を阻害している要因を特定します。
複数ユーザーの行動を比較し、共通する障害ポイントを抽出することで、UIや導線設計の改善に直結させることができます。ユーザーフィードバックと行動データを組み合わせることで、直感的で使いやすいプロダクトへの改善を実現できます。
活用事例 ⑤:ロイヤルカスタマーの成功モデルを構築
ロイヤルカスタマーと非定着ユーザーの行動を比較することで、継続利用につながった操作ステップを特定できます。
利用している機能や操作フロー
継続率・利用頻度の違い
特定の操作にかかる時間や頻度
こうした行動要素をもとにKPIを設定し、CXを高める戦略的な行動指標として活用できます。
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プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)で活用される主要指標
プロダクトアナリティクスでは、ユーザーの状態や行動を定量的に捉えるために、いくつかの主要指標が活用されます。以下では代表的な3指標を紹介します。
エンゲージメント率:ユーザーの利用度
エンゲージメント率は、ユーザーがプロダクトをどの程度積極的に利用しているかを示す指標です。一般的には日次/週次/月次のアクティブユーザー(DAU/WAU/MAU)を基に測定します。
この数値が高いほど、プロダクトの提供価値がユーザーにしっかり伝わっていると考えられます。
アクティベーション率:ユーザーの活性化状況
アクティベーション率は、新規ユーザーが主要機能を使用し始めた割合を示す指標です。たとえば、アカウント登録後に◯日以内に◯◯の操作を行ったユーザーの割合などが該当します。
アクティベーション率が低い場合は、オンボーディングプロセスや初期の導線設計に課題がある可能性があり、改善対象として注視すべきポイントです。
リテンション率:ユーザーの継続利用
リテンション率は、ユーザーが継続利用しているかを測る重要な指標です。たとえば「初回利用から7日後に再度ログインしたか」など、期間ごとの再訪率を計測します。
リテンション率はLTV(顧客生涯価値)や継続率向上に直結するため、SaaSやサブスクリプション型のサービスでは特に重視されます。
指標 | 定義 | 活用目的・活用例 |
エンゲージメント率 | ユーザーがプロダクトをどれだけ頻繁に利用しているか(日/週/月単位のアクティブユーザー数で測定) | プロダクトの魅力や価値が伝わっているかを把握し、改善施策の効果検証に活用 |
アクティベーション率 | 新規ユーザーがプロダクトの主要機能を一定期間内に使用した割合 | オンボーディングの成否を判断し、導線や初期体験の改善に活用 |
リテンション率 | ユーザーが一定期間後も継続的にプロダクトを利用しているかを測定 | 継続率向上施策やLTV最大化に向けた基盤指標として活用 |
プロダクトアナリティクス(プロダクト分析)の手順
プロダクトアナリティクスでは、以下の4ステップで分析から施策実行までのサイクルを構築します。
1. 目的と仮説を設定する
まず、「ユーザー定着率を高めたい」「特定機能の利用率を改善したい」といった、明確な目的を設定します。それに対し「利用が少ないのは導線がわかりにくいためでは?」などの仮説を立てます。
目的や仮説が不明確な状態でデータを見ても、有効な示唆を得ることは難しくなります。
2. データ収集と分析を実施する
設定した仮説を検証するために、必要なデータを収集・分析します。
有効な分析手法:
ファネル分析:ユーザーの離脱ポイントを把握
コホート分析:ユーザー群ごとの行動パターンを比較
n1分析:特定ユーザーの操作や行動を詳細に観察
ライフサイクル分析:ユーザーの定着度や状態の変化を分類・可視化
3. 得られた示唆をもとに意思決定を行う
分析結果に基づき、施策の優先順位を決定します。たとえば「特定機能の利用率が低い」場合には、UIの改善やガイドの拡充など、行動を促進する施策を実行します。
意思決定では、KPIはじめ改善すべき数値への貢献の度合いを常に意識する事が重要です。
4. 施策の効果を測定・再評価する
施策実施後は、対象としたKPIの変化を継続的に確認します。たとえば、アクティベーション率やエンゲージメント率の推移を追い、期待通りの効果が出ているかを検証します。
効果が出なかった場合は、仮説や施策内容を見直し、新たな分析サイクルへとつなげます。
チーム横断でのデータ活用
データは部署を超えて連携したときに最大限の価値を発揮します。組織全体でKPIを共有し、目的に基づく役割分担がなされている状態が理想です。
経営企画の役割
事業目標とKPIの設定
データ活用方針の全社レベルでの意思決定
データドリブン文化の推進
「どの指標が本当に重要か」を見極め、企業の北極星となるメトリクスを定義します。追うべき指標を明確にすることで全部門が同じ目標に向かって進むことができます。
プロダクトマネージャー(PdM)の役割
データに基づいた機能改善
UI/UXの最適化
顧客ニーズに合ったプロダクト体験の提供
データから問題点を特定し、UIの改善やユーザーフローの見直しを行います。顧客の声とユーザー行動データから顧客の課題を理解し、直感的なプロダクト体験を創り出します。
カスタマーサクセスの役割
顧客ライフサイクルの可視化(新規/定着/ファン/休眠)
解約リスクの早期発見と対応
顧客満足度と継続率の最大化
「休眠してしまいそうな顧客」や「熱心にプロダクトを使っているファン」を特定します。インサイトを活用し、適切なタイミングで的確なサポートを提供することで、顧客満足度と継続率を高めます。
マーケティング部門の役割
セグメントに応じたコミュニケーション戦略の立案
効果的なキャンペーン戦略の立案
新規ユーザーの定着促進
データから得られたインサイトを活用し、最適化した施策を実施し、初期体験を向上させます。ユーザーに響くメッセージを届け、プロダクトの価値をより効果的に伝えます。
企業としてプロダクトの体験価値を向上させることは、すべてのチームが取り組むべき共通のゴールです。その実現のためには、「重要行動の利用数」や「定着率の向上」など、具体的かつ測定可能なKPIを設定することが欠かせません。
顧客の行動データから得られるインサイトをもとに戦略を立案し、それを具体的なKPIに落とし込むことで、各チームが自身の役割を明確に果たすことができます。
また、企業全体の最重要KPI(例:LTVやリテンション率など)を起点に、そこから細分化されたKPIをチーム横断で共有・連携しながら継続的に改善していくことも、有効なアプローチです。

いずれのアプローチにおいても、鍵となるのは「顧客を行動データから高解像度で理解すること」です。そして、その理解に基づいて、チームを越えた適切な意思決定をスピーディかつ持続的に実行していくことが、CXの向上につながりビジネスの成長を持続的に推進する力となります。
まとめ
本記事では、プロダクトアナリティクスツールの概要から、主要な指標、活用方法、そしてチーム横断でのデータ活用に至るまで、包括的に解説しました。
プロダクトアナリティクスツールを活用することで、ユーザーの行動を深く理解し、より優れた体験を提供できるようになります。各部門が連携し、データに基づいた意思決定を繰り返すことで、プロダクトの改善サイクルが加速し、継続的な成長と顧客満足の向上につながります。
Wicle(ウィクル)は、プロダクトを継続的に使ってくれるロイヤルカスタマーや特定の機能を利用している一人ひとりのユーザーがどのように使っているかを可視化、分析できるユーザー行動分析のためのプロダクトです。
プロダクトチームの誰もが手軽に・継続的に・さまざまな粒度でプロダクトを分析し、ユーザーの心をつかむプロダクト開発ができるようになることを目指しています。
導入ハードルを下げるために、フリーミアムプランでも高度な分析が可能となるよう機能制限を最小限に抑えています。
まずは行動データの蓄積から始めてみてください。