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「初期設定で離脱されてしまう」 「オンボーディング施策を打っても、なかなか定着率が改善しない」
SaaS企業のカスタマーサクセス担当者なら、一度はこうした壁に直面したことがあるのではないでしょうか。
オンボーディングは、顧客がプロダクトの価値を実感し、継続利用へとつながる最初の関門です。 ここでつまずけば、どれだけ優れたプロダクトでも解約リスクは高まります。
では、オンボーディングを成功に導くために何が必要なのか。 その答えのひとつが「顧客理解」です。 一言で言えば、オンボーディング改善は「推測をやめて、事実を知ること」が重要です。
本記事では、顧客理解の基本から、オンボーディング改善の4つの実践ステップまで解説します。
読了後には、自社のオンボーディング改善に向けた具体的なアクションが見えてきたら幸いです。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングとは
SaaSビジネスにおいて、オンボーディングは顧客との関係を左右する重要なフェーズです。 この章では、オンボーディングの基本的な考え方と、なぜSaaS企業が力を入れるべきなのかを解説します。
オンボーディングの定義と目的
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングとは、サービス導入直後の顧客をサポートする取り組みです。 目指すゴールは、顧客が「自走できる状態」になること。 つまり、サポートなしでもプロダクトを使いこなし、価値を実感できる状態を指します。
オンボーディングが成功すれば、顧客は早い段階で「このサービスは使える」と感じます。 逆に、ここでつまずくと「使い方がわからない」「期待と違った」という理由で離脱されてしまいます。
なぜSaaS企業はオンボーディングに力を入れるべきか
SaaSはサブスクリプション型のビジネスモデルです。 顧客が継続利用してくれなければ、売上は積み上がりません。 オンボーディングで早期に価値を届けることが重要なのです。
オンボーディングに力を入れるべき理由は、大きく3つあります。
理由 | 説明 |
解約防止 | 導入初期の離脱を防ぎ、継続利用につなげる |
LTV最大化 | 長期利用によって顧客生涯価値を高める |
アップセル機会の創出 | 価値を実感した顧客は、上位プランや追加機能に関心を持つ |
オンボーディングは、カスタマーサクセスの4つのフェーズ(オンボーディング→アダプション→エクスパンション→プロダクトフィードバック)の最初のステップ。 ここでの成功が、その後のすべてに影響します。
オンボーディングがうまくいかない原因
「施策を打っているのに、定着率が上がらない」 そんな悩みを抱えるカスタマーサクセス担当者は少なくありません。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
その施策、「なんとなく」で打っていませんか?
オンボーディングがうまくいかない代表的な原因を見ていきます。
顧客の「つまずきポイント」が見えていない
プロダクト利用ログから「離脱率が高い」ことは分かります。 しかし、「なぜ離脱したのか」という原因までは見えません。
顧客は「やる気がなくて」離脱したのか。 それとも「やり方が分からなくて」諦めたのか。 定量データだけでは、この問いに答えられないのです。
原因が分からなければ、打つべき施策も見えてきません。 勘に頼ったフロー改善を実施するか、1社1社丁寧にヒアリングするか。 しかし、利用顧客が多い場合、すべての顧客に同品質のサポート体制を敷くことは難しく、つまずきポイントを把握できないケースも多いのが実情です。
これは「暗闇の中で地図を描く」ようなもの。見えない状態で施策を打っても、的を外し続けるリスクがあります。
顧客理解がオンボーディング成功の鍵となる理由
オンボーディングを改善するために、何が必要なのか。 その答えは「顧客理解」にあります。 推測ではなく、事実に基づいて顧客を知ることが、成功への近道です。
「推測」から「事実」へ——行動データで顧客を知る
「顧客はここでつまずいているはずだ」という思い込みは危険です。 実際の行動データを見ると、想定外のポイントで離脱していることも珍しくありません。
顧客理解には、定量データと定性データの両方が必要です。
データ種類 | 内容 | 分かること |
定量データ | PV数、離脱率、完了率など | 「どこで」「どれくらい」離脱しているか |
定性データ | セッションリプレイ、ヒートマップなど | 「なぜ」離脱しているか |
定量データは「どこで」を教えてくれる。定性データは「なぜ」を教えてくれる。 この組み合わせが、精度の高い顧客理解を可能にします。
顧客理解がセグメント別アプローチを可能にする
顧客の企業規模、業種、リテラシーによって、最適なアプローチは異なります。 しかし、顧客理解なしにセグメント設計をしても、効果的な施策にはつながりません。
行動データを分析することで、以下のような判断が可能になります。
「どのセグメントでつまずきが多いか」を把握し、優先度を決める
「ハイタッチが必要な顧客」と「テックタッチで十分な顧客」を見極める
セグメントごとの「離脱パターンの違い」から、施策を最適化する
顧客理解に基づいたセグメント設計ができれば、限られたリソースを効果的に配分できます。 結果として、オンボーディング全体の成功率が向上するのです。
Wicleを活用した顧客理解で定着率を上げるオンボーディング改善の進め方
ここからは、Wicleを活用し顧客理解を起点としたオンボーディング改善の具体的なステップを解説します。 4つのステップで、着実に改善を進めましょう。
ステップ1:オンボーディングフローから離脱したユーザーを可視化する
まずは、オンボーディングフローのどこでユーザーが離脱しているかを可視化します。
オンボーディングには複数のステップがあります。 たとえば「アカウント登録 → 初期設定 → タグ設置 → データ連携 → 初回分析」といった流れです。 このフローをシナリオとして設定し、各ステップの到達率を計測しましょう。

可視化によって分かることは以下のとおりです。
どのステップで離脱が多いか:ボトルネックとなっている箇所
ステップ到達ユーザーと未到達ユーザーの違い:行動パターンの差異
分岐シナリオごとの完了率:ユーザー属性や流入経路による違い
「全体の離脱率」ではなく「どこで離脱しているか」を把握することで、改善すべきポイントが明確になります。
ステップ2:顧客がつまずくポイントを深掘りする
離脱が多いステップが分かったら、次は「なぜ離脱しているか」を深掘りします。
有効な手法は、セッションリプレイやヒートマップの活用です。 セッションリプレイは、実際のユーザー操作を動画で再現する機能。 「特定のステップで離脱したユーザー」に絞って観察すれば、共通の行動パターンが見えてきます。

たとえば、以下のような発見があるかもしれません。
マニュアルページを開くが、数秒で離脱している
設定完了前に、機能ページを閲覧している
同じ画面を行ったり来たりしている
こうした行動から、「ドキュメントが読まれていない」「どこから始めればいいか迷っている」といった真因が見えてきます。
ステップ3:顧客セグメントごとのアプローチを設計する
つまずきポイントが分かったら、顧客セグメントごとにアプローチを設計します。
アプローチ | 対象 | 内容 |
ハイタッチ | 利用頻度が低い顧客 | 専任担当による伴走型サポート |
ロータッチ | 一般的な顧客 | 定期的なフォロー+必要時の個別対応 |
テックタッチ | 利用頻度が高い顧客 | チュートリアル、FAQ、ガイダンス機能 |


すべての顧客に同じ対応をするのではなく、セグメントに応じて最適なリソース配分を行います。 テックタッチの質を高めれば、多くの顧客を効率的にサポートできます。
ステップ4:施策を実行し、効果を検証する
施策を実行したら、必ず効果を検証します。 KPIを設定し、施策前後の変化を追いましょう。
オンボーディングのKPIには、以下のようなものがあります。
オンボーディング完了率:初期設定を完了した顧客の割合
オンボーディング完了までの時間:導入から自走までにかかった日数
アクティブユーザー率:一定期間内にログインしたユーザーの割合
目標を達成できなかった場合は、原因を分析し、施策を改善します。 ステップ1で設定したシナリオの到達率を継続的にモニタリングし、PDCAサイクルを回し続けることが定着率向上の鍵です。
顧客行動の可視化による、オンボーディングでのWicle活用事例
ここでは、実際に顧客理解を起点としてオンボーディングを改善した2つの事例を紹介します。
事例1:初期設定率1.8倍改善——離脱の真因を見抜いた分析
課題
広告施策の強化でリード数は増加。 しかし、初期設定を完了せずに離脱するユーザーが後を絶ちませんでした。 「広告経由のユーザーはモチベーションが低いから」と考えていましたが、本当にそうなのか検証が必要でした。
活用した機能
セッションリプレイ:初期設定を完了せずに離脱したユーザーの行動を動画で観察
発見した真因
ドキュメント(マニュアル)ページを開くが、滞在時間はわずか数秒
初期設定を終えていない状態で、空っぽの機能ページを閲覧している
「何をすればいいか分からず迷子になっている」ことが判明
当初の仮説「モチベーションが低い」は誤りでした。 ユーザーは関心があるからこそ機能ページを見ていたのです。 問題は「迷わせているUI/UX」にありました。
施策
ドキュメントに依存しない「簡易設置ページ」を新設
ログイン直後にポップアップで正しいルートへ誘導
成果
施策実施後、初期設定率は1.8倍に向上。 広告リードの歩留まり悪化を防ぐどころか、以前よりスムーズに定着させることに成功しました。
事例2:定例準備の効率化と有意義なコミュニケーション設計
課題
カスタマーサクセス担当者が、顧客企業との定例ミーティング準備に時間がかかっていました。 Lookerのレポートでは「誰がどの機能を使っているか」は分かるものの、直近の具体的な活動内容やつまずきポイントまでは把握しづらい状況でした。
活用した機能
グループ検索:担当企業を検索し、ユーザーごとの利用状況を一覧化
n1行動/セッションリプレイ:窓口担当者の具体的な操作を動画で確認
成果
複数ツールを行き来していた状態把握が、1か所で完結するようになりました。 定例準備にかかるキャッチアップの時間が体感で3分の2に圧縮。 その分、顧客にとって価値になる提案を考える時間を増やせました。
さらに、窓口担当者だけでなく、マネージャーや他のユーザーの利用状況も把握できるように。 役割ごとの着眼点の違いを踏まえた、有意義なコミュニケーションプランを設計できるようになりました。
まとめ——顧客理解から始めるオンボーディング改善
オンボーディングは、カスタマーサクセスの最初の関門です。 ここでの成功が、LTV最大化、解約防止、アップセル機会の創出につながります。
本記事のポイントをまとめます。
オンボーディングの目的は、顧客が「自走できる状態」になること
うまくいかない原因は、顧客のつまずきポイントが見えていないこと
改善の鍵は、推測ではなく「顧客理解」に基づくこと
4つのステップで、可視化→深掘り→設計→検証のサイクルを回すこと
「顧客はここでつまずいているはずだ」という思い込みを捨て、事実に向き合うこと。 それが、オンボーディング改善の第一歩です。
正直に言うと、オンボーディング改善は地味な仕事です。 「施策を打った!」という達成感は薄いし、数字が動くまで時間がかかる。
でも、顧客の行動を1人分でも観察してみると、見え方が変わります。
「なんでこの人、ここで止まったんだろう」 そう思いながらセッションリプレイを見ていると、不思議と愛着が湧いてきます。 顧客理解は、結局は「関心を持つこと」なのです。
「Wicle」は、セッションリプレイ、ヒートマップ、AI行動要約、グループ分析などの機能を備えたアナリティクスツールです。 顧客がどこでつまずいているのか、行動データから可視化できます。
「離脱の原因が分からない」「オンボーディング改善のヒントが欲しい」という方は、ぜひ一度Wicleで顧客行動を観察してみてください。

