
「広告でリード獲得数は増えたのに、なぜかその後の定着が悪い」 「無料登録はされるが、初期設定が完了せずに離脱されてしまう」
SaaSプロダクトの運営において、こうした「オンボーディング(定着化)」の壁に直面している方は多いのではないでしょうか。
私たちWicleチームも、まったく同じ課題を抱えていました。広告施策を強化してユーザー流入は増えたものの、「初期設定」でつまずくユーザーが後を絶ちませんでした。
しかし、自分達のサービスをWicleで分析し「離脱の真因」を特定、施策を実行した結果、初期設定率を1.8倍に改善できました。
本記事では、Wicleチームが実際に直面した課題から、セッションリプレイ(定性分析)を使ってどのように原因を特定し、解決に至ったのか。そのプロセスを紹介します。
課題:リード獲得数は増えたが、定着しない懸念
広告強化の裏で生まれた「リードの質」への不安
Wicleの認知拡大のため、私たちは広告施策の強化に乗り出しました。狙いは当たり、無料登録(サインアップ)の数は順調に増加していきました。
しかし、チーム内にはある懸念がありました。 「広告経由で入ってくるユーザーは、指名検索で入ってくるユーザーに比べてモチベーションが低いのではないか?」 「リード数は増えても、初期設定率(アクティベーション率)などの歩留まりが悪化するのではないか?」
一般的に、広告で間口を広げれば広げるほど、プロダクトへの理解度や熱量が低いユーザーも混ざりやすくなります。「とりあえず登録してみた」という層が増えれば、当然、面倒な初期設定のハードルを越えてくれる確率は下がると予想されます。
数字だけを見ていては「なぜ」が分からない
実際に数値をモニタリングしてみると、やはり初期設定完了率に鈍化の傾向が見え始めました。
ここで多くの担当者が陥りがちなのが、「広告経由のリードは質が悪いから仕方ない」と割り切ってしまうか、あるいは闇雲に「UIの色を変えてみよう」と当てずっぽうな施策に走ってしまうことです。
Google Analyticsなど解析ツールの定量データだけを見ていても、分かるのは「離脱率が高い」という結果だけです。「なぜユーザーが離脱したのか?」という原因までは分かりません。
ユーザーは「やる気がなくて」辞めたのか? それとも「やり方が分からなくて」諦めたのか? この問いを深掘りするために、私たちは自社プロダクトであるAIアナリティクス『Wicle』を使って、分析を行うことにしました。
分析:セッションリプレイで見えた「ユーザーの迷い」
私たちが活用したのは、Wicleの「セッションリプレイ」機能です。 これは、実際のユーザーがサイト上でどのような動きをしたのか(マウスの動き、クリック、スクロールなど)を、動画として再現・視聴できる機能です。

「初期設定を完了せずに離脱したユーザー」に絞って、何本ものリプレイ動画を観察しました。すると、共通の行動を発見しました。
ドキュメントは「読まれていない」という事実
多くのユーザーが「初期設定マニュアル(ドキュメント)」をほとんど読んでいないことがわかりました。
私たちは「設定につまずくのは、マニュアルが分かりにくいからかもしれない」と考えていました。しかし動画を見ると、ドキュメントページを開きはするものの、滞在時間はわずか数秒。スクロールもそこそこに、すぐに別のページへ遷移していました。
つまり、「マニュアルの内容が悪い」のではなく、そもそも「マニュアルを読んで理解してから設定する」という行動フロー自体が、ユーザーにとって負担になっていたのです。
空っぽの機能ページで立ち尽くすユーザー
さらに興味深い行動パターンが見つかりました。多くの離脱ユーザーが、初期設定(タグ設置など)を終えていない状態で、「分析ダッシュボード」などの機能ページを閲覧していたのです。
Wicleのような分析ツールは、データを連携して初めて価値を発揮します。設定前の状態では、ダッシュボードには何も表示されません。
動画の中のユーザーは、空っぽの画面を行ったり来たりしていました。おそらく「どんな分析ができるのか見たい」という期待を持ってクリックしたのでしょう。しかし、目の前にあるのは「データがありません」という無機質な画面だけ。
「これを使って何ができるのか」という価値を実感できないまま、期待値が下がり、そっとブラウザを閉じている……そんなユーザーの心理が、マウスの動きから痛いほど伝わってきました。
仮説の転換:「やる気がない」のではなく「迷子になっている」
これらの観察から、私たちの仮説は大きく変わりました。
× 修正前:広告経由のユーザーはモチベーションが低いから、設定してくれない。
○ 修正後:ユーザーは関心があるからこそ機能ページを見ている。しかし、ドキュメントを読み込むのは面倒で、直感的に何をすればいいか分からず「迷子」になっている。
課題は「ユーザーの質」ではなく、「迷わせているUI/UX」にあったのです。
施策:迷わせないための「簡易設置ページ」構築
「迷わせない」ことが解決策だと分かれば、打つべき手は明確です。私たちはドキュメントへの依存をやめ、システム側でユーザーをエスコートする仕組みを作ることにしました。
複雑なステップを分解し、ハードルを下げる
まず着手したのが、初期設定フローの分解です。 これまでは「マニュアルを読んで、タグを発行して、サイトに埋め込んで……」と、ユーザー任せにしていた工程を見直しました。
専用の「簡易設置ページ」とポップアップ誘導
具体的には、以下の2つの施策を実行しました。
「簡易設置ページ」の構築: ドキュメントを行き来しなくても、画面の指示に従うだけで最低限の設定が完了する専用ページを新設しました。ステップを細かく分け、最低限、何をすべきかを明確化しました。

ポップアップによる誘導強化: ユーザーがログインした直後や、迷っているような動きを見せたタイミングで、「まずはここから設定を始めましょう」というポップアップを表示。空っぽの機能ページへ迷い込む前に、正しいルートへ誘導するようにしました。

初期設定率は1.8倍にまで向上(6月vs8月比)
施策の効果はてきめんでした。 施策実施後の2025年8月の数値を、実施前の6月と比較したところ、初期設定率は1.8倍にまで向上しました。
懸念していた「広告リードによる歩留まり悪化」を防ぐどころか、以前よりもスムーズにユーザーを定着させることに成功したのです。これにより、広告予算を増やしても無駄にならず、事業成長を加速させるための強固な基盤が整いました。
まとめ
本記事では、Wicleチームが直面した「広告リードからのサービス定着化」という課題に対し、セッションリプレイを活用して解決した事例を紹介しました。
課題:広告でリードは増えたが、初期設定率(歩留まり)が悪化する懸念があった。
分析:セッションリプレイでユーザー行動を観察した結果、「ドキュメントが読まれない」「空っぽの機能ページで迷子になっている」という真因を発見。
施策:ドキュメントに依存せず、画面上で完結する「簡易設置ページ」と「ポップアップ誘導」を実装。
成果:迷わせない導線設計により、初期設定率を1.8倍に改善。
オンボーディングの改善において、推測だけで対策を打つのは危険です。「ユーザーはここでつまずいているはずだ」という思い込みを捨て、事実(データと動画)に向き合うこと。それが、成果を出すための近道です。
Wicleは、今回ご紹介した「セッションリプレイ」に加え、定量的なアクセス解析やヒートマップ機能も備えたAIアナリティクスツールです。 「離脱が多い理由が分からない」「施策のヒントが欲しい」という方は、ぜひ一度Wicleで自社サイトのユーザー行動を観察してみてください。

