
リテンションとは?
SaaS企業におけるリテンション(Retention)とは、顧客を維持し、継続的に自社サービスを利用してもらうための戦略や施策を指します。SaaSビジネスでは、新規顧客の獲得と同様に、顧客の維持も重要です。高いリテンション率を保つことで、収益の安定化やLTV(顧客生涯価値)の最大化が可能になります。
リテンション戦略にはさまざまな手法があります。
代表的なものには、オンボーディングの最適化、カスタマーサクセスチームの強化、パーソナライズされたカスタマーマーケティングの実施、継続的なフィードバック収集などが挙げられます。これらの施策を適切に組み合わせることで、顧客のエンゲージメントを高め、解約率の低下につなげることができます。
本記事では、リテンションの計算方法を解説するとともに、リテンションを向上させるための施策を紹介します。
新規顧客獲得とリテンションのバランス
多くの企業は新規顧客の獲得に注力していますが、獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)が高騰する中、顧客の維持はますます重要になっています。新規顧客の獲得と比較して、リテンション施策はコスト効率が高く、持続的な成長を支える鍵となります。
LTVとCACの関係を踏まえながら戦略を策定することが、顧客獲得とリテンションのバランスを取るうえで重要です。SaaSビジネスでは、特にフリーミアムモデルやサブスクリプション型モデルが一般的なため、獲得した顧客がどれだけ長くサービスを利用し続けるかが、ビジネスの成功を左右する重要な要素となります。
リテンション率(リテンションレート)の計測方法
リテンション率とは?SaaSにおける重要指標
リテンション率(Retention Rate)とは、一定期間内にサービスを継続して利用している顧客の割合を示す指標です。SaaS企業にとって、リテンション率の向上は収益の安定化と成長に直結します。
特にサブスクリプション型のビジネスにおいて、リテンション率は重要なKPI(主要業績評価指標)とされています。リテンション率が高ければ、安定した収益が見込め、マーケティングや広告費用の回収もしやすくなります。そのため、多くのSaaS企業がリテンション率向上のための施策に注力しています。
リテンション率の基本的な計算方法
リテンション率は以下の式で算出できます。
基本計算式

例:
期初(1月1日)の顧客数:1,000人
新規獲得顧客数(1月1日〜1月31日):200人
期末(1月31日)の顧客数:1,100人
この場合のリテンション率は、次のように求めます。

この計算式のポイントは、期間中に獲得した新規顧客を除外することです。顧客がどれだけ継続利用しているかを正しく評価するために、このような処理が必要です。
また、下記の計算式で簡単に計算することも可能です。
リテンションレート(%) = 継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100
Churn Rate(解約率)との関係
解約率(Churn Rate)は、リテンション率と対になる指標であり、顧客の離脱を示します。
リテンションレート(%) = 100 - Churn Rate(解約率)
例えば、解約率が10%であれば、リテンション率は90%となります。
リテンションが低下する要因とは?
顧客の期待とサービスのギャップ
サービスが顧客の期待を満たしていない場合、早期に解約される可能性が高まります。マーケティングや営業の段階で過度な期待を与えてしまうと、サービス利用開始後に「思っていたものと違う」と感じ、早期の離脱につながります。
UX(ユーザーエクスペリエンス)の問題
使いにくいUIや操作性の悪さは、リテンション率の低下要因となります。顧客が直感的に操作できる仕組みを提供することが重要です。特にSaaSにおいては、初回利用時の体験が継続率に大きく影響するため、オンボーディング体験のスムーズさがカギを握ります。
カスタマーサポートやオンボーディングの不備
適切なサポート体制が整っていない場合、顧客の定着は難しくなります。新規顧客向けのオンボーディングが不十分だと、サービスの価値を理解する前に離脱してしまう可能性があります。また、顧客が問題に直面した際に迅速な対応ができないと、サービスへの信頼を損ねる要因となります。
リテンションを向上させるための施策
ユーザーの継続利用(リテンション)を高めるには、顧客満足度の向上と、プロダクトの価値を最大限に引き出すための施策が欠かせません。
リテンション向上に有効な4つの施策を紹介します。
1. カスタマーサクセスの強化による顧客満足度向上
顧客がプロダクトを最大限に活用できるよう支援することは、リテンションを高める上で極めて重要です。特に、以下のようなアプローチが効果的です。
オンボーディングの最適化
初回利用時のスムーズな導入体験を提供し、プロダクトの価値を素早く伝える。
アクティブユーザーの継続支援
利用頻度が低下しているユーザーに対して、適切なタイミングでリマインドやガイドを共有する。
カスタマーサクセスチームの積極的な介入
定期的にミーティングを行い、ユーザーの課題を早期に把握・解決する。
2. UX(ユーザーエクスペリエンス)の改善
使いやすいプロダクト設計は、ユーザーのストレスを軽減し、リテンション率の向上に直結します。特に、以下のポイントを意識すると効果的です。
セッションリプレイを活用したUX改善
ユーザーの実際の行動データを分析し、離脱ポイントや操作ミスの発生箇所を特定します。
直感的なナビゲーション設計
ユーザーが迷わず目的の機能にたどり着けるよう、情報設計を最適化します。
レスポンスの高速化
ページの読み込み速度や操作時の反応速度を向上させ、ストレスの少ない操作体験を実現します。
3. 顧客の課題解決につながる活用支援(ウェビナー・ナレッジベースなど)
ユーザーがプロダクトを適切に活用できるよう、教育コンテンツを通じて支援することも重要です。とくに以下のような取り組みが効果的です。
ウェビナー・ワークショップの実施
具体的なユースケースを紹介し、活用事例を交えながら実践的な操作方法を伝えます。
ナレッジベース・FAQの充実
ユーザー自身が問題を解決できるよう、詳細なヘルプ記事や動画チュートリアルを提供します。
コミュニティの活用
ユーザー同士が情報交換できるフォーラムを設け、自己解決の促進とエンゲージメントの向上を図ります。
4. NPS®︎(ネットプロモータースコア)を活用したフィードバック施策
NPS®︎(ネットプロモータースコア)は、ユーザーがプロダクトを他者に推奨する可能性を測る指標であり、リテンション向上のための重要なヒントを得ることができます。
※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
定期的なNPS®︎測定
ユーザーの満足度を定期的に測定し、推奨度が低いユーザーの意見を分析します。
プロモーターの活用
高評価のユーザー(プロモーター)を特定し、口コミやケーススタディの作成に協力してもらいます。
フィードバックを即時反映
低評価の要因を特定し、迅速にプロダクト改善に反映することで、ユーザーの不満を解消します。
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まとめ
SaaSプロダクトの成長を持続させるうえで、リテンションは単なる「解約防止」を超えた、戦略的な取り組みです。顧客が価値を実感し、継続的に利用し続ける状態を実現することで、LTVの最大化や事業の収益性向上につながります。
新規顧客の獲得と同じ熱量で、顧客との関係を丁寧に育てるリテンション施策に取り組むことが、競争が激化するSaaS市場での成長の鍵となるでしょう。
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